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犬猫の腫瘍 皮膚:乳腺腫瘍の組織グレード

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犬・猫の乳腺腫瘍では、これまでに組織グレードの評価法がいくつか提案されてきていますが、これらの多くはヒトの乳腺腫瘍の組織グレードで用いられるElston and Ellisのグレード法(管状構造形成の割合、核異型、核分裂指数)を基にしています。その中から、犬・猫に合わせて修正された、あるいは予後因子を基にした組織グレードの評価法をご紹介します。
 
1. 犬の組織グレード 1)

Elston and Ellisの評価法を基にして、2013年にPeñaらによって犬の組織グレードの評価法が発表されました1)。これは、下記のA、B、Cの3項目について評価してポイント化し、最終的にA+B+Cの合計のスコアでグレードを決定します。
 
評価の基準

組織学的特徴 ポイント  
A. 管状構造形成a
   (Tubular Formation)
1 管状構造の割合が>75%
2 管状構造の割合が10-75%
3 管状構造の割合が<10%(少量~みられない)
B. 核異型b
   (Nuclear Pleomorphism)
1 均一または通常の小型核、時折見られる核小体
2 核の大きさや形に中等度のバリエーション、多染色体性の核、核小体の出現(いくつかは明瞭)
3 核の大小不同が頻繁、多染色体性の核、しばしば1つ以上の明瞭な核小体
C. 核分裂指数(10視野)c
   (Mitoses per 10 HPF)
1 0-9個/高倍率10視野
2 10-19個/高倍率10視野
3 ≧20個/高倍率10視野

a.複合型および混合型の腫瘍では、管状構造形成の割合は腺上皮細胞のエリアのみで評価する。悪性筋上皮腫の場合、管状構造形成はポイント2。数種混在している場合には、管状構造形成のスコアは最も代表的な悪性部で判定する。
b.複合型および混合型の腫瘍では、すべての悪性コンポーネントで核異型を評価する。
c.HPF: high power field (高倍率)。辺縁あるいは最も核分裂が盛んな部位(上皮だけに限らない)で評価を行う。1視野の直径 = 0.55mm
 
腫瘍の組織グレード

トータルのスコア(A + B + C) グレード(悪性度)
3-5 I (低グレード、高分化型)
6-7 II (中グレード、中分化型)
8-9 III (高グレード、低分化型)

image001
この写真中では、腫瘍の増殖巣の中で腫瘍細胞の形成する管状構造(矢印で示した構造)の割合は10-75%の範囲にあり、ポイント= 2に該当します。
image002
充実性の増殖を示す乳腺腫瘍(solid carcinoma)。管状構造の形成は<10%であり、ポイント=3に該当します。

 

このPeñaらの報告では、この組織グレードを用いて、65頭の犬で2年間の予後のフォローアップを含めた前向き研究が行われています。各グレードの生存平均期間およびKaplan-Meierの生存曲線は以下に示す様に報告されています。
 

グレードI   すべての症例が検査終了時(38ヶ月以上)まで生存
グレードII  平均期間 32.84ヶ月
グレードIII  平均期間 20.36ヶ月
image002
組織グレードと全生存期間の生存曲線(Peñaらの報告1)より抜粋)
 

このグレードと相関していた項目として、再発や転移の有無、腫瘍のサイズ(<1, 1-2.9, および≧3cm)、組織学的なサブタイプ(2011年のGoldschmidtらの分類法に基づく)が挙げられています。比較的グレードの高い傾向にあった組織学的なタイプとしてはSolid carcinoma、comedocarcinoma、anaplastic carcionoma、adenosquamous carcinomaが含まれていますが、すべての組織学的タイプの評価はされておらず、また個々のタイプの数も十分ではないので、今後の検討が必要です。
 

2. 猫の組織グレード 2)

猫でも、長らくヒトの乳腺腫瘍に用いられるElston and Ellisのグレード法を用いていましたが、近年、Millsらによって、より猫の乳腺腫瘍の予後を反映した組織グレードの評価法が提唱されました2)。この論文中では、従来のElston and Ellisのグレードを修正した評価法の他、予後と関連する組織学的な因子を基に評価を行う、新しい評価法も提唱されています。個々の評価項目の合計点でグレードを決定する方法は従来通りです。Elston and Ellisのグレードの修正法のうち、核分裂指数のみを変更したもの(Mitotic-Modified Elston and Ellis, MMEE)はA+B+Cの合計のポイント、リンパ管侵襲等を加えたもの(Revised Elson and Ellis, REE)はA+C+D+Eの合計のポイントでグレードを決定します。新しい評価法(novel grading system)は表2に示し、A+B+Cの合計のスコアでグレードを決定します。この3つの評価法は、いずれも従来用いられていたElston and Ellisの評価法に比べ、より猫の乳腺腫瘍の予後を反映していると報告しています。
 

表1 Elston and Ellis systemを修正した評価法
 
評価の基準

評価点 スコア  
A. 管状構造形成
   (Tubular Formation)
1 管状構造の割合が>75%
2 管状構造の割合が10-75%
3 管状構造の割合が<10%(少量~みられない)
B. 核異型
   (Nuclear Pleomorphism)
1 均一または通常の小型核
2 核の大型化、空胞化、バリエーションが中等度
3 形状や大きさが著しく不均一、空胞化したクロマチン
C. 核分裂指数(10視野)a
   (Mitoses per 10 HPF)
1 0-50個/高倍率10視野
2 51-70個/高倍率10視野
3 ≧71個/高倍率10視野
D. リンパ管侵襲 0 なし
1 あり
E. 核形態(Nuclear form)b 1 ≦5% が異常
2 6-25% が異常
3 >25% が異常

a.核分裂像が最も活発に見られた部位で、10の連続した視野(1視野は0.53mm, 対物レンズ40x)の核分裂数の累計数
b.異常核形態は平滑な核の輪郭や円形/楕円形核からの逸脱(例えば間隙、角ばった形態、核膜のしわ、アメーバ様形態)の程度を指し、腫瘍内で最も分化傾向が低い箇所且つ/又は浸潤性が高い箇所の高倍率(対物レンズ40-60x)で検討する。視野中に見られた異常核形態は、その視野の核の総数に対する割合(%)で表す。
 

腫瘍の組織グレード
MMEEはA+B+Cの合計のポイント、REEはA+C+D+Eの合計のポイント

トータルのポイント グレード(悪性度)
3-5 I (低グレード、高分化型)
6-7 II (中グレード、中分化型)
8-9 or 8-10 (REE) III (高グレード、低分化型)

表2. 新しい評価法 (Novel grading system)
 
評価の基準

組織学的特徴a スコア  
A. リンパ管侵襲
  (Lymphovascular invasion)
0 なし
1 あり
B. 核形態(Nuclear form)b 0 ≦5% が異常
1 >5% が異常
C. 核分裂指数(10視野)c
   (Mitoses per 10 HPF)
0 ≦62個/高倍率10視野
1 >62個/高倍率10視野

a.それぞれの組織学的な特徴を検討し、合計する。
b.表1の核形態と同様に検討する。平滑な核の輪郭や円形/楕円形核からの逸脱の割合。
c.表1の核分裂指数と同様に評価する。10の連続した視野(1視野は0.53mm, 対物レンズ40x)の核分裂数の累計数。
 
腫瘍の組織グレード

トータルのスコア グレード(悪性度)
0 I (低グレード、高分化型)
1 II (中グレード、中分化型)
2-3 III (高グレード、低分化型)

image004
核形態(Nuclear form)の評価では、平滑な核膜を持つ円形/楕円形核(赤矢印)から逸脱した核(黒矢印)を異常核形態と評価しています。
このMillsらの研究では、各評価法で評価した場合の生存中央値およびKaplan-Meierの生存曲線を以下の様に報告しています。
 
グレードI   MMEE: 27ヶ月、REE: 29ヶ月、novel grading system: 31ヶ月
グレードII  MMEE: 14ヶ月、REE: 12ヶ月、novel grading system: 14ヶ月
グレードIII  MMEE: 13ヶ月、REE: 5ヶ月、novel grading system: 8ヶ月

image004
MMEE法による組織グレードと全生存期間の生存曲線  
 
image006
REE法による組織グレードと全生存期間の生存曲線
(Millsらの報告2)より抜粋)                             (Millsらの報告2)より抜粋)



image008
新しい評価法による組織グレードと全生存期間の生存曲線
(Millsらの報告2)より抜粋)     
 

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参考文献
1. Peña L, De Andres P.J., Clemente M. et al. Prognostic value of histological grading in noninflammatory canine mammary carcinomas in a prospective study with two-year follow-up: relationship with clinical and histological characteristics. Vet Pathol. 2013;50(1)94-105.
2. Mills S.W., Musil K.M., Davies J. L. et al. Prognostic value of histologic grading for ferine mammary carcinoma: a retrospective survival analysis. Vet Pathol. 2015;52(2)238-249.
3. Goldschmidt M. H., Peña L.., and Zappulli V.: Tumors of the mammary gland. In: Tumors in Domestic Animals, ed. Meuten DJ, 5th ed., pp. 723-765. John Wiley & Sons, Inc. Ames, IA, 2017.