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犬猫の腫瘍 膵臓

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正常な膵臓

膵臓は各種の消化酵素を分泌する外分泌部と、糖代謝などに関係するホルモンを分泌する内分泌部(ランゲルハンス島)から構成されています。

細胞診
正常膵臓では、外分泌腺上皮細胞がシート状あるいは塊状に採取されます。外分泌上皮細胞は顆粒状の核クロマチンを有する円形から楕円形核と、豊富な細胞質を有しています。しばしば単一の明瞭な核小体が認められます。高倍率では細胞質内にピンク色のチモーゲン顆粒が観察されることがあります。

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組織
膵臓は薄い小葉間結合組織によって区画される多数の小葉に分けられます。大部分は多角形の外分泌腺で構成されますが、その中に類円形の内分泌部(ランゲルハンス島)が散在します。外分泌腺の終末部の細胞質は好塩基性の細胞質で、頂部には好酸性の分泌顆粒(チモーゲン顆粒)を含みます。一方、ランゲルハンス島を構成する細胞は主にグルカゴンを分泌するα細胞と、インスリンを分泌するβ細胞、ソマトスタチンを分泌するδ細胞に区別されますが、HE染色では区別は困難です。

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外分泌腺の結節性過形成  Nodular hyperplasia of exocrine pancreas、Pancreatic acinar cell hyperplasia

結節性過形成は老成の犬や猫でよくみられる非腫瘍性の偶発病変です。直径1㎝未満の様々な大きさの多発性病変を形成します。病変には被膜はなく、周囲を圧迫することもありません。腺房細胞過形成と導管過形成があり、犬や猫では腺房細胞の過形成がより多くみられます。

 

細胞診
外分泌腺の結節性過形成では、外分泌腺上皮細胞がシート状あるいは集塊状に採取されます。異型性に乏しい外分泌腺上皮細胞が採取されてくるため、細胞診では、腺腫や高分化型腺癌との鑑別が困難です。

 

病理組織
結節性過形成は周囲の正常な小葉よりも大きく、明確な被膜は持ちません。過形成を構成する細胞には様々な大きさや形をしており、通常は密な腺房構造を形成していますが、シート状や充実状になっている部位も観察されます。

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予後・治療法
良性の病変で、腫瘍化との関連はありません。

膵外分泌腺腫  Adenoma of exocrine pancreas

膵外分泌腺の腺腫はとても稀で、腺癌より発生頻度は低い腫瘍です。犬や猫など様々な動物で発生します。大抵は直径1㎝以下で孤在性に起こります。腺腫は被膜を持ち、徐々に拡大しますが、悪性転化の報告は有りません。細胞形態としては導管由来と腺房由来に分類できますが、臨床的な挙動の違いはみられません。高分化型腺癌との区別は浸潤性や異型性の有無で行われます。

 

予後・治療法
完全切除後の予後は良好です。

膵腺癌  Pancreatic adenocarcinoma

犬や猫の膵外分泌腺由来の腺癌の発生は比較的稀です。細胞形態としては導管腺癌、腺房腺癌、硝子化膵癌、外分泌‐内分泌混合癌、未分化膵癌の亜型に分類されますが、臨床的な意義はまだ明らかではありません。犬では4歳以下に起こる稀な腫瘍で、短期間に元気食欲消失、嘔吐、疼痛、体重減少が起こります。
猫では中年から老齢(中央値11.6歳)で起こる腫瘍で、触診での腹部腫瘤や短期間での体重減少、食欲不振、嘔吐、黄疸により来院します。また、糖尿病の発症や腹水/胸水が見られることもあります。猫によっては顔や腹部、脚の内側にツルツルした光沢感のある脱毛が起こりますが、この症状は膵臓腫瘍の摘出により治癒します。

 

細胞診
外分泌腺癌では、上皮細胞が細胞間接着のゆるいシート状あるいは塊状に採取されます。これらの上皮細胞には、核の大小不同や核の輪郭の不整、核細胞質比(N/C比)の顕著な増加、核の重なり、角張った核小体の出現などが認められます。細胞質には、点状の細胞質空胞がみられることもあります。

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病理組織
増殖する細胞のタイプにより腫瘍の亜型が分類されていますが、動物医療では亜型による予後の違いについては明らかになっていません。亜型としては導管腺癌、腺房腺癌、硝子化膵癌、膵臓の明細胞癌、外分泌‐内分泌の混合癌、未分化膵癌などがあります。

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予後・治療法
犬では周囲組織への腫瘍の浸潤や転移は頻繁に起こり、肝臓転移は最もよく見られます。
猫では診断時において約80%の症例に転移が見られます。肝臓への転移が最もよく見られますが、リンパ節や肺への転移、小腸への腫瘍の拡大もよく起こります。

膵島由来腫瘍 Tumors of pancreatic islet cells

膵島由来腫瘍(膵島腺腫/膵島癌)の中で最も頻繁に起こるのがβ細胞由来の腫瘍(インスリノーマ/悪性インスリノーマ)です。これらの腫瘍の多くは機能性で、低血糖を起こします。β細胞以外の細胞由来の腫瘍も発生しますが、非常に稀です。細胞形態のみで由来細胞を特定することは困難で、免疫組織化学染色で産生するホルモンを特定する必要があります。
β細胞腫瘍は5-12歳の犬で最も頻繁に観察されます。様々な犬種で発生しますが、アイリッシュセッターやジャーマンシェパード、ラブラドールレトリーバー、ボクサーなどの大型犬種でより頻繁に見られます。猫では稀です。

 

細胞診
インスリノーマでは、中から大型の類円形細胞が孤在散在性あるいは細胞間接着のゆるい集簇として採取されます。核は単一で偏在するものが多く、核クロマチン結節は明瞭な顆粒状として観察されます。淡青色を呈す細胞質の境界はしばしば不明瞭で、時に空胞化しています。核の大小不同や大型核の出現などの異型性が認められます。細胞形態のみで他の神経内分泌癌と鑑別することは困難です。

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病理組織
膵島腺腫は被膜を有する境界明瞭な腫瘍で、血管結合組織により区画される小型の小葉構造や胞巣状構造を形成します。腫瘍細胞は高分化な立方から円柱上皮で、好酸性微細顆粒状の細胞質を有します。核分裂像は稀です。

膵島癌は腺腫よりも大型で、周囲の膵臓実質への浸潤性を有しています。腫瘍細胞は立方形から多角形で、好酸性顆粒状の細胞質を有します。核分裂像は頻繁ではありません。小型の生検組織や細胞診では高分化な膵島癌と腺腫との区別はしばしば困難ですが、腫瘍の大きさや腫瘍の浸潤性などが予後の評価の基準とされています。

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予後・治療法
良性のインスリノーマは境界明瞭で被膜を有しているため、外科的切除で治癒します。完全切除により低血糖やそれに関連する神経症状は改善します。大多数の膵島腫瘍は悪性で、約50%の犬の膵島腫瘍では手術時に転移が認められ、剖検症例の90%に転移が確認されています。膵島癌は肝臓やリンパ節に多発性の転移病巣を形成します。

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参考文献
Tumor in domestic animals, 5th ed, John Wiley & Sons, inc, 2017.
Cowell RL, Valenciano AC. Cowell and Tyler’s Diagnostic Cytology and Hematology of the Dog and Cat. 5th ed. St. Louis. Mosby. 2019.

* 本腫瘍マニュアルは、主に上記の文献を参考にしていますが、IDEXXの病理診断医が日々の診断を行う際に用いるグレード評価などは他の文献等を参考にしています。