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犬猫の腫瘍 皮膚:組織球系腫瘍

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犬の皮膚組織球腫
Canine cutaneous histiocytoma
臨床情報
最もよくある犬の皮膚腫瘍です。すべての年齢の犬で起こりますが、3歳以下では発生率が下がります。すべての犬種で起こりますが、ボクサーやダックスフントといった純血種でより多くみられます。頭部(特に耳介)での発生が頻繁ですが、体のどの部位でも起こります。通常、孤在性に発生し、自然退縮します。
 
細胞診
細胞診では多数の独立円形細胞が採取されます。これらの細胞は核クロマチン結節に乏しい類円形核と淡好塩基性に染色される中等量~やや広い細胞質を有しています。核はしばしば楕円形や腎臓形を示すことがあり、核小体は不明瞭です。核の大小不同などの異型性は、通常は軽度です。リンパ球浸潤を伴うものでは、小型リンパ球や形質細胞が混在してみられますが、この場合には肉芽腫性炎症との区別は困難となります。
(鑑別診断:リンパ腫、形質細胞腫、良性皮膚組織球症、全身性組織球症、ランゲルハンス細胞組織球症、肉芽腫性炎症など)
 
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病理組織
組織球腫はドーム状にせり出し、その部位では様々な程度に脱毛します。ほとんどの病変は2cm以下ですが4cmにもなることがあります。腫瘍は真皮表層を中心とした増殖形態から“top-heavy”の病変を形成し、しばしば上皮内にも浸潤します。(このことから、上皮向性リンパ腫との区別が困難になることがあります。)腫瘍細胞は豆型~卵円形の核と、中等量の淡好酸性細胞質を有しています。核分裂像は頻繁にみられますが、核の異型性や多核細胞の出現は稀です。腫瘍の底部では成熟リンパ球や形質細胞の浸潤がみられます。発生からの時間の経過とともに、潰瘍や壊死がみられることがあります。
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予後・治療法
切除後の再発率は非常に低く、自然退縮することもあり、予後は良好です。他の部位に新しく起こることもとても稀です。
組織球腫が同じ部位または他の部位に発生した場合には、犬のランゲルハンス細胞組織球症を疑う必要があるかもしれません。

犬の皮膚ランゲルハンス細胞組織球症
Canine Cutaneous Langerhans Cell Histiocytosis
臨床情報
犬に見られる稀な疾患です。多数(時に数百)の皮膚病変から始まり、全身性疾患となることがあります。病変は発赤や脱毛、潰瘍を伴う結節/腫瘤病変で、皮膚だけでなく、皮膚‐粘膜境界部や口腔粘膜を巻き込むことがあります。シャーペイでより多く見られますが、他の品種でも報告されています。しばしば大型化し、犬の皮膚組織球腫と比べ退縮の遅延があります。
 
細胞診
犬の皮膚組織球腫と類似する細胞診所見が認められます。
 
病理組織
個々の病変は、犬の皮膚組織球腫とほとんど変わらない組織像を呈しますが、病変はより大型で、皮下組織や筋肉にわたる病変を形成します。大小不同などの細胞異型や多核細胞の出現を伴うこともありますが、常に見られるわけではありません。リンパ管浸潤はリンパ節転移を示唆する所見です。
 
予後・治療法
初期では、病変は皮膚や皮膚と付属リンパ節に限局していますが、内臓も巻き込むことがあります。リンパ節に病変を形成する症例はより悪い予後を示し、全身に広がった症例ではさらに加速します。全身に広がった症例では、様々な臓器を巻き込みますが、病変は肺やリンパ節ではコンスタントに病変がみられます。
 

組織球性肉腫
Histiocytic Sarcoma
臨床情報
犬や猫で起こる組織球由来の悪性腫瘍です。犬では、バーニーズマウンテンドッグ、フラットコーテットレトリバー、ゴールデンレトリバー、ロットワイラーでより好発します。脾臓や肺、皮膚、関節などほぼすべての組織で発生しうる腫瘍です。1個の組織/臓器で発生した場合、“局所性”と呼び、多臓器に広がったものを“播種性/全身性”と呼びます。樹状細胞由来の腫瘍は、灰白色の結節性病変を形成し、限局性のことも多発性のこともあります。脾臓で見られる血球貪食性組織球性肉腫(この腫瘍については病理診断症例集13をご覧ください)の様なマクロファージ由来の腫瘍では、腫瘤を形成せず、び慢性の病変(脾腫)を起こします。臨床症状は発生部位によって様々で、脾臓で見られる血球貪食性組織球性肉腫では、貧血や低アルブミン血症などがみられることがあります。
 
細胞診
細胞診では類円形、不定形ないし紡錘形を示す多数の大型細胞が採取されます。これらの細胞は核クロマチン結節に乏しい、あるいは疎なクロマチンパターンを示す類円形核と淡好塩基性に染色される中等量~広い細胞質を有し、細胞質内には空胞が認められます。多核巨細胞の出現がみられることもあります。多くの場合、核の大小不同、N/C比のばらつき、大型核、大型核小体、大小不同多核などの強い異型性が観察されます。血球貪食性組織球性肉腫では、赤血球や白血球、血小板などの血球成分や他の腫瘍細胞の貪食像がみられることがあります。
(鑑別診断:ランゲルハンス細胞組織球症、未分化な肥満細胞腫、乏色素性悪性黒色腫、肉腫など)
  
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病理組織
腫瘍は大型で、多形成を有する独立円形細胞のシート状増殖で構成されており、多核巨細胞も認められます。しばしば異常核分裂像もみられます。腫瘍細胞は紡錘形となることもあり、その場合には紡錘形細胞肉腫との鑑別が必要となります。
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予後・治療法
播種性の組織球性肉腫の進行は早く致命的です。一方、局所性の組織球性肉腫はより遅い進行を示しますが、高い転移率を有します。治療は症例にもよりますが外科的切除や化学療法の併用が一般的です。

猫の進行性組織球症
Feline progressive histiocytosis
臨床情報
この腫瘍は中年~老齢の猫の疾患で、間質の樹状細胞由来の低悪性度の組織球性肉腫と考えられています。初期では孤在性の皮膚結節として観察されますが、経過とともに多臓器を巻き込むようになります。皮膚病変は通常は複数のプラークや結節として発見されます。痒みや痛みはなく、病変部は脱毛や潰瘍化していることもあります。病変は頭部、下趾(指)、体幹で起こります。
 
細胞診
この疾患の細胞診所見についてはほとんど情報がありませんが、鑑別診断にはリンパ腫、形質細胞腫、組織球性肉腫、肉芽腫性皮膚炎が挙げられています。
 
病理組織
真皮の組織球の浸潤性増殖で、皮下組織にわたることもあります。腫瘍細胞に上皮向性がみられることもあります。初期では腫瘍細胞の異型性は軽度で、感染症による肉芽腫との鑑別が必要になってきます。後期では、細胞の大小不同などの異型性が顕著となります。
 

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予後・治療法
病変は良くなったり悪くなったりしますが、自然退縮はおきません。一部の腫瘍はリンパ節や肺、腎臓、肝臓、脾臓、肺などで増殖します。初期の孤在性病変であれば、外科的切除によりコントロール可能なこともありますが、他の病変が発生することもあります。

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追加参考文献
Moore PF1. A review of histiocytic diseases of dogs and cats. Vet Pathol. 2014 Jan;51(1):167-84.