未避妊の雌猫では、乳腺腫瘍は、皮膚腫瘍、リンパ腫に次いで、3番目に発生の多い腫瘍です。腫瘍発生の危険因子とされているのは、年齢、品種、ホルモンの影響です。年齢は、犬と同様に中~高齢での発生が多く、診断時の中央年齢は10-12歳が多いと言われています。品種別では、シャム猫ではより若い年齢で診断されることが多く、また他の品種に比べて発生率が高いと報告されています。また、犬同様にホルモンの影響もあり、未避妊雌での発生が高く、避妊雌に比べると約7倍高いとの報告もあります。内因性の影響だけでなく、プロゲスチンなどホルモン治療でもリスクが上がります。雄でも稀に発生があり、犬同様にホルモン治療や腫瘍によるホルモン異常に関連したものが報告されています。
通常、乳腺腫瘍は腫瘤状病変として発見され、単発性でも多発性にも発生します。多数の腫瘤を形成することも珍しくはありません。また、猫では85-95%が悪性と悪性腫瘍の割合が高いため、血液データ、胸部X線、腹部超音波検査、尿検査、支配リンパ節のFNAなど、より注意深い検討が勧められます。
通常、乳腺腫瘍は腫瘤状病変として発見され、単発性でも多発性にも発生します。多数の腫瘤を形成することも珍しくはありません。また、猫では85-95%が悪性と悪性腫瘍の割合が高いため、血液データ、胸部X線、腹部超音波検査、尿検査、支配リンパ節のFNAなど、より注意深い検討が勧められます。
猫の乳腺腫瘍の多くが悪性とされており、幼若で異型性を伴う乳腺分泌上皮細胞が単一の細胞群として観察された場合には(写真1)、犬と同様、悪性と評価されます。しかしながら猫の悪性乳腺腫瘍の多くは、写真2に示すように、一見すると異型性に乏しいと思える乳腺分泌上皮が観察されることが多く、犬の乳腺由来腫瘍とは所見が異なる点に注意が必要です。写真2に示す乳腺分泌上皮は比較的均一な形態を呈してみられ、類円形核と好塩基性に染色される細胞質を有しています。個々の細胞には軽度の核の大小不同が観察されますが、核異型としてはそれほど強いものではありません。しかしながらより詳細に観察してみると、これら上皮の核クロマチン網工は細網状でクロマチンの結節形成には乏しく、やや分化傾向に乏しい細胞集団であることが予測されます。また観察部位によって細胞間の結合性が乏しいことがあります(写真2)。猫の乳腺部腫瘤からこのような乳腺分泌上皮が観察された場合、細胞診では悪性乳腺腫瘍の可能性を考えます。つまり猫の乳腺腫瘍の細胞診では、異型性がそれほど強くない乳腺分泌上皮が均一な細胞集団として採取されたとしても、これらの細胞に若干でも分化傾向に乏しい所見が観察されるのであれば、悪性の可能性を含めて考えることが大切です。
猫の乳腺腫瘍における良性病変として、線維腺腫様変化があります。症例のプロフィールや臨床経過が評価の助けとなる疾患ですが、細胞診では異型性に乏しい乳腺分泌上皮が観察されます。しかしながら先に示す通り、猫の乳腺腫瘍に対する細胞診では、細胞自体の異型性が乏しい場合であっても悪性の可能性は完全に否定できません。そのため細胞診のみに頼る判定は危険であり、臨床経過が異なる場合には、詳細な判定のために病理組織検査による増殖形態の評価が必要となります。
(写真1)
猫の乳腺部腫瘤。異型性を伴う乳腺分泌上皮が多数採取されており、乳腺癌と考えらます。
(写真2)
猫の乳腺部腫瘤。N/C比は高いものが多いが、核の大小不同は軽度で、一見悪性ではないように思われます。しかし、猫では乳腺癌であっても細胞診でこのように見えることがあり、注意が必要です。
猫の乳腺腫瘍における良性病変として、線維腺腫様変化があります。症例のプロフィールや臨床経過が評価の助けとなる疾患ですが、細胞診では異型性に乏しい乳腺分泌上皮が観察されます。しかしながら先に示す通り、猫の乳腺腫瘍に対する細胞診では、細胞自体の異型性が乏しい場合であっても悪性の可能性は完全に否定できません。そのため細胞診のみに頼る判定は危険であり、臨床経過が異なる場合には、詳細な判定のために病理組織検査による増殖形態の評価が必要となります。
(写真1)
猫の乳腺部腫瘤。異型性を伴う乳腺分泌上皮が多数採取されており、乳腺癌と考えらます。
(写真2)
猫の乳腺部腫瘤。N/C比は高いものが多いが、核の大小不同は軽度で、一見悪性ではないように思われます。しかし、猫では乳腺癌であっても細胞診でこのように見えることがあり、注意が必要です。
猫の乳腺腫瘍では多くが悪性と言われ、アグレッシブな挙動を取ることも多く、リンパ管浸潤やリンパ節転移も少なくありません。病理組織での評価は基本的に犬と同様であり、良性/悪性の評価とともに、増殖する細胞の種類、増殖のパターン、周辺への浸潤性、核分裂像、壊死の有無、リンパ管浸潤の有無などを検討します。これらに基づいて、基本的にはWHOのサブタイプに分類します。
猫の乳腺腫瘍のWHO分類
猫の乳腺腫瘍については、1999年に発表された分類が使用されています。日本語名は、日本獣医病理学専門家協会が提案した腫瘍診断名に基づいています。下記の分類の中には、非腫瘍性の病変(過形成/異形成)も含まれています。
猫の乳腺腫瘍のWHO分類
猫の乳腺腫瘍については、1999年に発表された分類が使用されています。日本語名は、日本獣医病理学専門家協会が提案した腫瘍診断名に基づいています。下記の分類の中には、非腫瘍性の病変(過形成/異形成)も含まれています。
1. | Malignant Tumors | 悪性腫瘍 | ||
1.1. | Noninfiltrating (in situ) carcinoma | 非浸潤性癌(上皮内癌) | ||
1.2. | Tubulopapillary carcinoma | 管状乳頭状癌 | ||
1.3. | Solid carcinoma | 充実癌 | ||
1.4. | Cribriform carcinoma | 篩状癌 | ||
1.5. | Squamous cell carcinoma | 扁平上皮癌 | ||
1.6. | Mucinous carcinoma | 粘液癌 | ||
1.7. | Carcinosarcoma | 癌肉腫 | ||
1.8. | Carcinoma or sarcoma in benign tumor | 良性腫瘍内の癌あるいは肉腫 | ||
2. | Benign Tumors | 良性腫瘍 | ||
2.1. | Adenoma | 腺腫 | ||
2.1.1. | Simple adenoma | 単純腺腫 | ||
2.1.2. | Complex adenoma | 複合腺腫 | ||
2.2. | Fibroadenoma | 線維腺腫 | ||
2.2.1. | Low-cellularity fibroadenoma | 細胞密度の低い線維腺腫 | ||
2.2.2. | High-cellularity fibroadenoma | 細胞密度の高い線維腺腫 | ||
2.3. | Benign mixed tumor | 良性混合腫瘍 | ||
2.4. | Duct papilloma | 乳管乳頭腫 | ||
3. | Unclassified Tumors | 未分類の腫瘍 | ||
4. | Mammary Hyperplasias/Dysplasias | 乳腺過形成/異形成 | ||
4.1. | Ductal hyperplasia | 乳管過形成 | ||
4.2. | Lobular hyperplasia | 小葉過形成 | ||
4.2.1. | Epithelial hyperplasia | 上皮過形成 | ||
4.2.2. | Adenosis | 乳腺症 | ||
4.2.3. | Fibroadenomatous change (feline mammary hypertrophy, fibroepithelial hypertrophy) |
線維腺腫様変化 (猫乳腺肥大、線維上皮肥大) |
||
4.3. | Cysts | 嚢胞 | ||
4.4. | Duct ectasia | 乳管拡張 | ||
4.5. | Focal fibrosis (fibrosclerosis) | 巣状線維症(線維性硬化症) |
猫の乳腺腫瘍の大半が悪性で、分泌腺上皮細胞に由来する単純型の乳腺癌の発生が多い傾向があります(写真1,2)。
また、過形成/異形成の中でも、犬に比べて猫でよくみられる病変は線維腺腫様変化(写真3)であり、特に若い未避妊の雌猫やプロジェスティン治療をした猫でよくみられます。この病変は、腫瘍でよくみられるような被膜を有する明瞭な腫瘤を形成する病変ではなく、1つの乳腺全体あるいは複数の乳腺に発生する特徴があります。腺管構造の周囲に、やや水腫性の線維性間質を伴います。
(写真1)
乳腺癌、低倍像。腫瘍は周囲組織へ浸潤するように増殖しています。Inset:腫瘍高倍像。細胞診でも示唆されていたように、腫瘍細胞の異型性がそれほど強くないこともあります。
(写真2)
乳腺癌、中倍像。猫の乳腺のWHO分類には明記されていませんが(犬の2010年の論文には記載)、いわゆる浸潤性微小乳頭癌です。
(写真3)
線維腺腫様変化、低倍像。
当初、組織評価によるグレード分類は予後とあまり関連しないと考えられていましたが、いくつか組織グレードの検討が報告されており、生存期間との関連が示唆されています(See: 猫の組織グレード)。
グレードに加え、組織学的に予後と関連していると考えられているのは、リンパ管浸潤やリンパ節転移です。
グレードに加え、組織学的に予後と関連していると考えられているのは、リンパ管浸潤やリンパ節転移です。
予後に関する報告はあまり多くなく統一性のないものもありますが、いくつか予後に関連すると言われている因子には以下の例が挙げられますが、近年の再検討1)では、最も信頼性のある因子はリンパ節転移、リンパ管浸潤、腫瘍の大きさ、腫瘍のグレード(核分裂指数を含む)と結論づけられています。
- 腫瘍の大きさ:8cm3または直径2cmより小型の腫瘍では比較的予後が良く(生存中央期間が3年以上)、直径3cmあるいは27cm3以上の腫瘍では生存期間が短い(生存中央期間が6ヶ月)。
- リンパ節転移:リンパ節転移のあった猫は、診断から9ヶ月以内に亡くなる率が高い。
- リンパ管浸潤(塞栓):粗生存率(overall survival)は、リンパ管塞栓がある場合は7ヶ月、ない場合は36ヶ月。無担癌生存率(disease free survival)はリンパ管塞栓がある場合は5ヶ月、ない場合は14ヶ月。
- 腫瘍のグレード:グレードの高い方が予後が悪い。詳細は猫の組織グレード参照。
- 品種:純血種では雑種猫は純血種に比べて予後が良い。シャム猫の乳腺腫瘍は予後の悪いことが多い。
治療方法としては外科手術が基本です。
早期の避妊は乳腺癌発生のリスクを下げると考えられていますが、24ヶ月齢以降の避妊ではリスク低下には関与しなかったと報告されています。
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参考文献
1. Zappulli V, Rasotto R, Caliari D et al. Prognostic evaluation of feline mammary carcinomas: A review of the literature. Vet Pathol. 2015;52(1):46-60.